石川拓治 青森のリンゴ農家の主人公の木村さんが、農薬に過敏に反応するようになってしまった妻をきっかけにして、無農薬栽培を試みるお話である。
人が口にできる様々なもので、農薬の代わりができないのか、安全に害虫を駆除することはできないのか、6年間もこだわり続けるのだが、ことごとく失敗に終わり、リンゴ畑も荒れ果ててしまう。家族も巻き添えにしてしまったことを苦に、満月の夜、ロープを持って、岩木山を登っていくと、そこで、ある光景に出会う。それは満月の月明かりの下、松ぼっくりがたわわに実った小さな木だった。とっさに、どんな農薬を使っているのだろうかと思ったそうである。そこまで、追い詰められていた。しかし、よくよく考えてみると、ここはお山で誰も農薬散布をしているわけでもなく、自然に実がたわわに実っていることに気付く。もちろん、山には虫も雑草もたくさん生息している。それにもかかわらず、その木の葉はつやつやで、ほとんど虫にも食われていない。幹もしっかりしていて根も張っている。そして、自分が立っている地面が、ふかふかで、そこから雑草を引き抜いてみると、土をつけながら、細い根までがすんなり抜けたという。そして、そのふわふわの土を手で堀り、口にも入れてみた。山の土のにおい通りの味がしたという。そして、その土がとても暖かいことにも気づいた。そこには、雑草や小さな虫たちが沢山生息している自然の世界があった。そこで、彼は、無農薬リンゴのために必要なものに気づくのである。
駆除する害虫はいない。そもそも害虫と決めたのは、人間だと。それから、彼は、畑の土を掘って温度を測り、山の土の温度とは違うことに気付き、農薬でいかに土壌の生態系を壊していたのかも知る。雑草も刈り取り自然の力を奪い冷たく硬い土壌にしていたことにも知った。どんなに小さな虫でも雑草でも、この土地のために存在しなければならないのだと。農薬や肥料を散布すると、それは一年しか持たないから、毎年散布し続けなけならない。でも、雑草も虫も自然のままにしておけば、自然に土の中ではたくさんの菌が醗酵し、雑草は土を耕すと。そして、その生態系のバランスに気づいた彼は、そのバランスをじっと見つめながら、ついに無農薬リンゴを作り出す。そのリンゴ畑では、虫も雑草もいい塩梅で共生をしている。そして、ある大型台風で、周りのリンゴ畑から、リンゴの木が根こそぎ飛ばされているような嵐の中、彼のリンゴ畑のリンゴの実はほとんど落ちずに風雨に耐えていたそうである。それは過保護な育て方をせず、リンゴの木がもつ生きる力を引き出した結果だそうだ。
人間は、楽をしよう、きれいなものを作ろうと、自分の思うものを生態系を無視して生み出してきた。しかし私たちも地球の一員であり、虫や雑草と同じ生き物である。ここに存在する1人1人、そして虫も植物も、すべてのものは、その役割を持って存在していることを、改めて気づかされた。誰一人何一つ、そこに存在しないで良いものはないのだと強く思った。そして人間もリンゴの木と同様に、過保護に育てると、自分の根を張れずに、打たれ弱くなってしまうのかなとも感じた。動物も虫も植物も、どれもが愛おしく大切なのだと、深く考えることが出来た。本書を通して、自然体で、笑顔の素敵な木村さんからの優しさや無限の愛を、私も受け取ったような読後とても心温まる本でした。
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