吉野源三郎 本書は私に本はただ面白いもの、だけではなく、その奥の奥に著者からの熱い思いが込められたものであることを気づかせてくれた本でした。
読み始めは、戦前の日本では、裕福な家庭の親子の会話は、母親にも敬語を使う生活が当たり前だったのねと思いを巡らしたり、コペル君がどのように人生を生きるのかというお話、として読んでいました。そして貧富の差も現代と同じように差別なく明るく描かれ、それが良いという示唆もされていて、コペル君の生き方も含め共感しながら読み進めて本文が終わりました。
普段の私なら、ここから読み進めることはあまりなかったのですが、最後のページまでを読んでみると、そこには本が書かれた時代背景の解説などがありました。
この本が出版された1937年ごろの日本では、1931年満州事変、出版された年の7月には盧溝橋事件が起こりその後日中戦争につながっている時代でした。さらに第二次世界大戦のきな臭さが増しているときで、日本は軍国主義へ大きく舵が切られ、言論や出版の自由は制限されていた頃だったと書かれていました。思想の弾圧などもある状況の中、少しでも子供たちを、この、時の悪影響から守りたい、という目的の本の1冊だったことを知りました。
だから、著者は次の日本を背負う子供たちへの熱いメッセージを送るため、人生の生き方だけではなく、社会システムの重要性の話もしていたのか、とすべてが腑に落ちました。
今日の日本ではこの本に書かれていることを当たり前のように実行している我々がいることもしみじみと考えました。きっと著者の思いがその当時この本を手に取った子供たちに沁みて、それが私たちまで受け継がれているのではないかとさえ思いました。思い伝えたいことがあるならば、意志をもって伝えなければならないことを実感しました。ある本に、「本は自分へのラブレターとして読みなさい。」と書いてありました。ラブレターなら、表も裏も漏らさず読みつくし、様々な想像をすることでしょう。これからは、本文を読むだけではなく、その文章が書かれた背景に思いを寄せるなど、一歩踏み込んだ視点を持とうと思いました。そして、著者が伝えたかったことをしっかり受け取りたいと思いました。
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